事件を数理論理学的な視点から解決するという独特な一冊です.
単純な推理小説としてみても,読者も推理可能な,いわゆる本格推理小説です. 比較的短く単純化されているにもかかわらず,簡単には解けないような事件を扱っており,推理を楽しみながら読むことができました. また,数理論理学的な視点から推理をするという,推理の方法論自体を描くという点は,古くからあるホームズ等の推理小説に通じるところをを持ちながら,数理論理学というそういった探偵にはない新たな道具を使うところに新しさを感じる一冊でした. むしろ,推理と論理学ってかなりつながりの深い二つなのに今までこういった本がなかったのが不思議なくらいでした.(私が知らないだけかも)
さらに,物語全体を通して,「伏線回収の掟」がしっかりできており,面白いなと思ったのは「伏線が回収」できていないというのを作中で指摘ことによって,「伏線を回収」するところでした.
数理論理学と推理を結び付けようとすると実際難しいところも多々あるような気がするにもかかわらず, この本ではすごくきれいにまとまっており,推理小説好き,特に,今までなかったような推理小説を読んでみたいという人にはお勧めの本でした.
=========== 以下 推理メモです.メモなのでぐちゃぐちゃです =========== =========== ネタバレを含むので注意 =========== 数理論理学について ===== 吹き漆の座卓の上に,一枚のメモ書きが残されていた. 論理式の充足問題→私は台所の戸棚の上にいる 硯さん 超高偏差値女子高校→T大,論文がフランスのパリ数理科学財団の会員の教授の目に留まり,請われてフランスの大学の研究機関へ,論文の引用件数が日本人で年間トップ フランスの金融機関に就職 退社してセミリタイア生活 硯さん曰く論理学は「すべての人間の思索活動の頂点に立つもの」 「構文(シンタックス)は理解している.意味内容(セマンティクス)が理解できない」 「論理学を学べばもちろん論理的思考力も鍛えられるけれど,目的はそこじゃない.論理学の究極の目標は,人間の思考を支配する法則を明らかにすること」 仮言三段論法 A->B B->C => A->C 定言三段論法 A=B B=C => A=C 普遍記号学 ライプニッツが二十歳で書いた「結合法(デ・アルテ・コンビナトリア)」 1928年「現代数学の父」ともいわれる著名なドイツの数学者,ダフィット・ヒルベルトは,数学のどんな命題も真偽を証明できる,矛盾のない数学体系を構築する計画を提唱した.それがいわゆる「ヒルベルト・プログラム」. けれどその計画に否定的に答えてしまったのが,クルト・ゲーデルの「不完全性定理」. 1931年,ゲーデルはこの「不完全性定理」を証明することで,ヒルベルト・プログラムが達成不可能であることを世に示してしまった. 「私は美人だからモテる」という文章は二つの命題からの思考プロセスの短縮形 - 私は美人である - 美人ならばモテる ヒルベルト公理系 ウカシェヴィチの公理:3つの公理と一つの推論規則(Modus Ponens) ゲンテェンの自然演繹(NK):一つの公理と複数の推論規則.人間の普通の考え方に近いので「自然」 各命題を真偽の検証が可能な粒度まで落とし込むこと. まずは論理を検証可能な公理にまで分解し,次に公理から結論が導出できることを形式的に証明し,そして最後に公理が正しいかを確認する, それが「検証」のステップ スターアニス事件 ====== 同級生のゆりに誘われてパーティに参加した. どんな行為が「故意」で,どんな行為が「偶然」かが公理に定義されていること 実際にあった「スターアニス誤食事件」と状況が酷似 スターアニス(八角):中華料理屋東南アジアの料理によく使われるスパイスの一つ 血行促進効果があり,料理のほかに医薬品やアロマの精油にも使われるが,一説には子宮の収縮作用が懸念されていて妊婦や子供が過剰に摂取することは勧められない. パクチーと同じく個性的な風味 日本には自生しない 「しきみ」の木(ジャパニーズスターアニス):日本に自生しているスターアニスによく似た実をしている.強い毒性を持つ. 問題 スターアニスと「しきみ」を間違えたのが故意か偶然か 動機は数理論理学による推理では利用しない - 動機の接続詞は論理記号ではない ** 「だから」や「ために」は論理記号に存在しない - 動機は恒真的事実ではない あやめさん 探偵役 人の行動原理を人よりも丁寧に考える 「所詮は人間同士,そこまでわかりにくいこともありません.少なくとも,お花の気持ちを知るよりは」 硯さん「見た目清純派の,謎解きが得意な美人花屋店長さんなんて,ちょっとあざといくらいの設定だよね.文庫化して一般受けする表紙にしたらそれなりに売れそう.タイトルは「花屋探偵藍前あやめ~キンモクセイは秋に二度咲く~」みたいな感じで.最後は必ず花言葉でシメるんだよ」 被害者は妊娠しており妊娠 パーティの参加者から妬まれていた あやめさん説 「もし被害者の妊娠を邪魔するのが目的ならスターアニスだけで十分だった」 「スターアニスの花言葉は「活力」.もしかしたらカフェの店長さんは本当に他意がなかったのかもしれないね」 故意 確定的故意:相手が死ぬ可能性を認識していたにもかかわらず,あえてその行為をしたかどうか 予見可能性:相手が死ぬ可能性を認識していたこと 反対動機の形成:やめることができたこと 硯さん 櫁川さんはパーティ中に庭にあるスターアニスを食べたことがあると嘘をついたため,法律は上は故意に当たると指摘. イタリアンレストラン事件 ====== 中尊寺先輩 謎中毒者:(addicted to riddle) 経営戦略コンサルタント 毒舌 「まったく.お前にはがっかりだな.がっカリーというカレーを食品メーカーと共同開発したいくらいだ」 PDCA:Plan Do Check Action,仮説,行動,検証,仮説の改善 PDCAサイクルを継続的に回すことで,人類はここまで発展してきた. ポアロが助手のヘイスティングスに向かっていったそのコーヒーの茶碗には「ストリキニーネが入っていたか,あるいは入っていなかったか」のどちらかなんです!とな MECE:Mutually exclusive, collectively exhaustive:重複なくもれなく イタリアンレストラン「アマトリーチェ」の従業員:中川さんとその友人Bと店長 アマトリチャーナ風ブカティーニ →トマトソースが跳ねやすい Bさん:白いブラウスの20代のかわいらしい女性 →ずっと片手で胸を押さえていた 人の出入りが激しく容疑者は絞れなかった イタリアンレストランの従業員は特注で5本しかないネクタイを,珍しいネクタイの結び方クロスノットでしていた 被害者はネクタイで絞殺されていた 被害者が犯行時ネクタイをしていなかった.トマトソースのはねたシミを隠すため,中川さんはBさんにネクタイを貸した 被害者はネクタイで絞殺されていたので,被害者のネクタイではなく犯人のネクタイ,つまりネクタイを持っており,犯行をするチャンスのあった第一発見者の店長が犯人 硯さんのコメント 「はたして中尊寺さんは本当に「被害者がネクタイをしていなかった」ことを証明したのかな?」 「中尊寺さんが証明したのは「被害者がネクタイをつけていなかった」ことではない.「ネクタイをつけていたのは被害者ではなかった」こと」 対偶の証明 含意の論理記号には多くのパラドックスがある. 「必然性のパラドックス」:前提が偽だと常に真 「因果関係のパラドックス」:時間関係が絡むとあり得ない対偶が出てくる 「カラスのパラドックス」:ヘンペルのカラス,対象を観測せずに対象について証明できてしまう「危うさ」 総じて「実質含意のパラドックス」 中尊寺先輩の推理では対偶を用いていた. 命題中の時間軸がずれていてはたとえ現実世界でも排中律は成り立たない. 「中川さんが被害者ならば中川さんはネクタイをしていなかった」のならばの前後の時間軸が違う可能性を指摘. 硯さんの推理 第三者の実行犯Yが友人Bと共犯で殺人を起こした 「中川さんが殺されたのち,ネクタイを奪って中川さんのふりをして,友人Bと接触,その後犯人はネクタイを持ち去った」 この仮説が正しければ,犯人がクロスノットを結べず,防犯カメラにそれが移っている可能性を指摘 *一つになるのは何故犯人はこんな手の込んだ真似を 雪の洋館事件 ====== レヴィ・ストロースの研究を引用するなら,人間社会の婚姻制度は数学的な群の交換として構造的に記述できる. その交換ルールをどこまで許容するかは偏に所属する社会の... 探偵:上笠 未来予知能力:7つの大罪の象徴によって,将来起こる不吉な出来事を予見 予見した事件の犠牲者に聖痕が見える オリガ:腕をけが:両腕が使えない イリナ:足を怪我 蓮華:館の主 周防:蓮華のマネージャー,オリガやイリナとは初対面 蓮華さんが離れの自室で絞殺 雪は11時には降りやんだ 0時:蓮華が部屋に戻った 0時:周防さんが自室からオリガまたはイリナを目撃 朝6時過ぎ:周防さんが自室からオリガまたはイリナを目撃 庭には一人分の往復の足跡 死亡推定時刻:朝5時~6時 →双子のどちらかが犯人 - 周防さんはイリナかオリガかはケープをしていたため腕は見えなかった - イリナは午前3時までと6時以降のアリバイがある - オリガが紅いケープを持っているが,最近見ていない - 足跡は一人の人間が一回しか踏んでいない - 足跡に合致する靴は一つしかない(今日初めて来た人の靴を使った) 探偵は5時以降大広間にいた 周防さんが自室に戻るには大広間を通る必要があった チェーホフ4大戯曲のひとつ3姉妹 オリガ,マーシャ,イリーナ チェーホフの銃 もし第一章で壁にライフルが掛けてあると述べたならば,第二章か第三章でそれは必ず発砲されなければならない.」 使わない伏線は張ってはいけないという,俗にいう「伏線回収の掟」 聖ペテルブルクのパラドックス 期待値計算が無限大になってしまうが,高い値が出るのは低い確率なので実際にはそれほど大きな値は出ない 探偵:上笠の推理 周防さんが偽証 周防さんの部屋の窓からスタートして部屋の窓まで戻ってきて,窓から自室に入った. 硯さんの推理 三往復した オリガ(行きを目撃),イリーナ,オリガ(帰りを目撃) 三往復の足跡を互い違いにすることで,一往復分に見せた. 周防さんの曖昧な目撃証言に様相論理を取り入れた #古典でも行けない? かみつく蛇 レヴィアタンの隠喩「嫉妬」 最後 ===== 一章のゆりに話すべきか否か,2章のPDCAサイクル,三章の三姉妹 スラブ人画家のアルフォンス・ミュシャは四つの花とされる連作絵 バラ,アイリス,カーネーション,ユリ 「のばら」という名前の母が,子につけた名前があやめとゆりで「なでしこ」が抜けていることを指摘 1番目の事件の被害者が「なでしこ」であった. 2番目3番目の事件はともに被害者一人,犯人二人という配役.まず犯人が特定されず,次に別の人間に嫌疑がかかるという二段構えの構成 主人公は硯さんに自分の立てた計画犯罪に穴がないかを検証させていた. 実際の事件をベースに計画を立て,中尊寺先輩や上笠さんに話して推理を聞き,そこからもう一度練り直して,硯さんにチェックしてもらっていた.
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